九州中央病院 
病院長 杉町 圭蔵
《タバコは体に害がありますよ!》

  病院の庭に咲き誇ったつつじが終わった途端に、急に夏がやってまいりました。今回は、喫煙者にとっては快い話題ではありませんが、是非、多くの方に禁煙していただきたいという気持で、タバコの害について書きました。
 タバコはアメリカ先住民が愛用していたものですが、コロンブスによって新大陸が発見された後、15〜16世紀に急速に全世界に広まりました。1500年前のマヤ文明の美術品に喫煙が描かれており、当時のタバコは万能の解毒薬で、魔法的な力があると信じられていました。しかし、1950年代になるとタバコは喫煙者のみではなく、周囲のヒトにも害を及ぼすことが明らかになり、禁煙のキャンペーンは全世界的に広がりました。
 厚労省の情報によれば、タバコの煙には4000種以上の化学物質が含まれており、そのうち、ベンゾピレンなど43種類の化学物質には発癌性が認められています。見方を変えると、喫煙者は43種類もの発癌剤をわざわざ高いお金を出して買い、毎日、これでもか、これでもかと自分の体に癌を作っているのです。
   他方、職場の集団検診では早期癌の発見に力を入れていますが、皮肉な見方をすると、喫煙者は、自分の体を使った発癌実験を行い、癌ができたかどうか、その実験結果をレントゲン、内視鏡、CTなどで定期的にチェックしているのです。なんとも滑稽な話です。
「あなたは癌ですよ。」と告知すると、多くの患者さんは、直ちに、タバコを止めることが出来るのに、何故、癌になる前にタバコを止めなかったのでしょうか。自分だけは癌にはならないという根拠のない確信でもあったのでしょうか。
 米国UCLAのRabinoffらは、タバコには煙を目立たなくしたり、ニコチン摂取を増大させてタバコへの依存性を高めたり、喫煙習慣に伴う症状や疾患を隠してしまうような500種余りの添加物が使用されていることを明らかにしました。チョコレートやカカオといった添加物にはタバコの煙を肺に浸透しやすくする作用があり、また、喫煙者の咳を抑制する鎮静作用を持つ添加物も含まれているとのことです。
 一方、オレゴン大のPankowは「タバコは単にタバコの葉を紙で包んだものではなく、製造業者が煙や味を操作し、作り上げたもので、いろんな添加物が結合することで有害になりうる。」と警告しています。また、アラバマ大のBlumは「安全なタバコを作ることは鉛を金に変えるに匹敵する。」とその困難性を指摘しています。
 禁煙者を増やすきっかけ作りのために、九州中央病院では、「建物内禁煙」とさせていただいています。全国の医学部では30%(24/80)、付属病院では46%(39/84)がすでに「敷地内禁煙」を実施しており、これからも禁煙区域はどんどん増加するだろうと思います。
 平成16年の調査では日本の成人の喫煙率は男性が43.3%と前年に比べて3.5%減少していますが、女性は12.0%と前年より0.7%増加しています。患者には禁煙を勧めながら、医療従事者が自分ではプカプカやっているのは如何にも滑稽です。平成20年に九州中央病院職員の喫煙率を調べたところ、医師26.6%、看護師3.0%、医療技術職9.4%、事務系15.4%(平均8.9%)と残念ながら医師の喫煙率が最高でした。
「喫煙」は保険証を使って病院で治療できる「ニコチン依存症」という立派な病気です。ニコチン摂取を続けると、ニコチン受容体がダウンレギュレーション(受容体の数の減少)を起こし、ニコチンを外部から摂取しないと神経伝達が低下した状態となります。これがニコチン離脱症状であり、自覚的にはニコチンへの渇望が生じます。ニコチンに対する依存症の人は「喫煙するとリラックスできる。」と言いいますが、実際は離脱症状を喫煙によって一時的に緩和しているに過ぎないのです。
 喫煙が肺癌、喉頭癌、食道癌、膀胱癌、肺気腫、慢性気管支炎、狭心症、心筋梗塞、脳血栓など多くの疾病と深い関係にあることはよく知られていますが、喫煙によって脳血管性痴呆やアルツハイマー病が増加することも判っています。このように喫煙が体に悪いことは理解できていても、自分に対して甘く、意思の弱い人は尤もらしい屁理屈を並べて、タバコを絶つことはできません。
 外国では数値目標を揚げて国が喫煙率の削減に取り組み、アメリカでは喫煙率を40%から23%に、オーストラリアでも38%から17%と成果を挙げています。ところが、日本では厚生労働省のリーダーシップがとれておらず、国の取り組みは他の先進国と比べて非常に遅れています。タバコが健康に悪いことの証明はすでに終わっており、これからは如何にして「ニコチン依存症」患者を減らすかという段階です。
 他方、タバコ税を所管する財務省では「喫煙は自己責任」と逃げています。確かに年間2兆円余りのたばこ税は大切な財源でしょうが、厚労省の試算では、「タバコにより少なくとも4兆円以上の損失がある。」「タバコによる超過死亡数は9万5000人であり、全死亡者の12%を占めている。」と報告しています。
 一方、米国のタバコ関連各社は訴訟で総額3685億ドル(約38兆円)の和解金を支払うことで合意しており、この金額を見ただけでも、タバコが健康に対して如何に大きな害を与えているかが理解できます。
 外国の禁煙運動には大きな温度差はありますが、タバコの包装紙にEUでは「Smoking kills」「Smokers die younger」オーストラリアでは「Smoking causes blindness」など書かれています。
 私は喫煙病者を減らす最も有効な手段はタバコの値段を1箱1000円程度に値上げすることで、これによって喫煙者は半減し、不幸な癌患者を減らすことができると考えています。
 福田内閣は年金問題、後期高齢者医療、ガソリン税などで支持率は低下の一方を辿っていますが、医療や福祉にもっと税金を投入し、後期高齢者の医療費を無料化し、さらに、喫煙率を激減させて国民の健康増進に努めるなど、国民の為の政治をやっていただきたいものです。