健康管理センター第一部長 大森 将

 多数の人が集まる場所での受動喫煙(“他人の煙を吸わされること”)防止を定めた「健康増進法」の施行に合わせ、平成158月より当院も院内全面禁煙となりました。このような“たばこ対策”は全国で進みつつあります。しかし「健康日本21」策定時の業界反発のように、諸外国と比べると日本のたばこ対策はまだ遅れが目立ちます。本稿では、最近のデータを基に、喫煙と“がん”の関係についてあらためて考えてみます。
 平成567年に満60歳で当院ドックを受診した男女587名を対象に、郵送による追跡調査を実施しました。受診時の喫煙状況とその後のがん発症の関係を調べると、平均追跡期間6年の間に28名のがん発症を認め、図1のように過去喫煙者、喫煙者とも発症のリスクが有意に高くなっていました。すなわち、吸ったことのない者と比べると、60歳で喫煙している者は8倍、禁煙した者でも5倍がんを発症しやすいという結果でした。たばこは様々ながんを引き起こし、がんの3割は喫煙が原因と考えられています。
 肺がんは、1998年から胃がんを抜いて日本人の部位別死因のトップとなりました。わが国の全国的大規模追跡調査(Japan Collaborative Cohort study)によると、男性の肺がん死の52.2%、女性の11.8%は喫煙が原因でした。さらに男性の肺がん死の14.8%、女性の2.8%は過去の喫煙が原因でした。合計すると男性の肺がん死の67%は喫煙が関与しています。また図2のように、肺がん死のリスクが吸ったことのない者と同等になるには、止めて15年以上かかることが示されています。腎細胞がんのリスクは、20年以上及ぶとの報告もあります。禁煙しても長く影響が残り、健康障害がいかに甚大であるかがわかります。スウェーデンの追跡調査では、禁煙者の乳がん発症率は止めて1年以内が最も高い(2.76倍)と報告されています。禁煙しても油断は出来ません。
 喫煙はがん以外にも様々な健康障害をもたらし、寿命にも影響を及ぼします。禁煙によってどれだけ寿命が延びるかを調べた米国の大規模調査(Cancer Prevention Study II)によると、35歳で禁煙した人は吸い続けた人と比べ男性で6.98.5年、女性で6.17.7年寿命が延びていました。一方65歳でやめた場合は男性1.42.0年、女性2.73.7年と延び方が短く、若いうちに禁煙した者ほど寿命の延びたことが示されています。
 現在、当センター人間ドック受診者の喫煙率は男性32%、女性6%、禁煙した方は男性31%、女性3%です。禁煙しても長期に及ぶ健康障害を考えると、若年者の喫煙開始を防ぐことがたばこ対策として最も重要と思われます。吸い始めてもできるだけ若いうちに、またニコチン中毒や心理的依存が形成される前に止めることが肝要です。