外科部長 北村昌之


 近年、食事の欧米化とともに大腸癌は急増しています。以前は、日本人の癌の代表というと胃癌でしたが、大腸癌は手術例数で言うと、すでに10年程前より胃癌を抜いて、現在では消化管の癌では最もポピュラーなものとなっております。大腸は解剖学的には結腸と直腸に大別されます。結腸は盲腸からS状結腸までで、それより下部すなわち肛門に近い部分が直腸です。距離でいうと、肛門から約12〜15cmまでの部分の短い部分ですが、そこに大腸癌の約25〜30%が発生します。


【症状と診断】
下血・排便困難・便意頻回が直腸癌の3大症状ですが、これはすでに進行した直腸癌の症状であって、早期の直腸癌の症状は肉眼的あるいは非肉眼的血便です。非肉眼的血便とは、すなわち無症状のことです。したがって症状がなくても検診の意味で便潜血反応の検査の検査を行うことが早期発見には重要です。便潜血反応の検査は最近では非常に進歩し、ほんの極少量の血液もとらえることが可能となっています。さらに、逆行性大腸造影あるいは大腸ファイバースコピー検査で、確実に診断することが可能です。


【治療】
直腸癌というと人工肛門をイメージする人が多いと思います。確かに、以前はそうでした。
しかし、1980年代に器械による吻合法が導入されて、より肛門に近い部位で吻合できるようになり、現在では人工肛門になるのは、直腸癌患者の20%以下となっております。以前は、肛門から腫瘍下縁までの距離が8cmまでは吻合可能と言われておりましたが、現在では3〜4cm位まで十分に可能となってきました。ただ、人工肛門になるかどうかは、この肛門から腫瘍までの距離のみではなく、癌そのものの進展具合にもよります。また、術後にも排尿機能、男性性機能をできるだけ温存しようという考えから、1980年台より自律神経温存手術が行われるようになってきました。現在では、かなりの症例において自律神経温存手術でも従来の手術と予後は変わらないことから、より一般的な手術となってきております。やはり、ここでもまた癌の進展具合で神経温存の可否が決まります。



近年、大腸癌検診および大腸ファイバースコピーの発達により、早期の直腸癌が多く発見されるようになり、そのような症例を治療する機会が増加しております。
早期に発見されればもちろんほとんど治癒しますが、以前は、手術においてはあまり早期発見のメリットがなく、術後機能障害の発生も余儀なくされておりました。
しかし、最近では究極の機能温存手術と言われております内視鏡的ポリペクトミーが発達し積極的に行われております。この方法では大腸ファイバースコピーをする程度の侵襲で全く術後機能障害はありません。ただ、リンパ節転移の問題があり、現在は早期癌のなかでもリンパ節転移のない粘膜内癌と一部の粘膜下層に進んだ癌のみが適応となっております。
また、この条件にあうものの範囲が広くて内視鏡的ポリペクトミーでは取りきれない症例に対しては、Buessによって開発された直腸鏡下の切除術である経肛門的内視鏡下マイクロサージャリーtransanal endoscopic microsurgery (TEM)にて、術後機能障害を全くおこさず手術できるようになってきました。
しかし、手技が難しく、また合併症も少なくありません。そこで当院では独自に工夫をこらし簡単で合併症のほとんどない経肛門的直腸腫瘍切除術を行っております。
現在の直腸癌に対する手術を表にまとめています。


 表 現在一般的に行われている直腸癌に対する手術
  
  1 )開腹手術(進行癌及び一部の早期癌)
                1.直腸切除術(低位前方切除術)
                2.直腸切除術(人工肛門)
  2 )経肛門的手術(早期の粘膜内癌)
                1.古典的経肛門的手術
                2.経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー
                3.内視鏡的ポリペクトミー(粘膜切除術)

【手術成績】 ここ20〜30年で飛躍的に改善し1990年の大腸癌登録でみると、手術した直腸癌全体の5年生存率(治癒する確率)が75.0%で、これを進行度別にみると、より早い段階のDukes Aで91.9%、Dukes Bで77.6%、Dukes Cで58.3%となっております。


当院での経肛門的直腸腫瘍切除


当院では1998年より独自の方法で、経肛門的に直腸腫瘍を切除しております。この方法では、前述した直腸肛門機能障害の、膀胱機能障害・性機能障害も全くありません。また、手術による侵襲も非常に少なく、手術2日目〜3日目には食事を開始し、その翌日には退院可能で術後の疼痛もほとんどありません。

方法は、腰椎麻酔下に経肛門的に特殊な直腸鏡を挿入し(図a)、目的の腫瘍を含む直腸全層の腸重積をおこし(図b)、直腸膨大部、さらには肛門外へ引き出し(図c)、自動縫合器にて切除と縫合を同時に行います。

対象となるのは、内視鏡的ポリペクトミーが困難かまたは不能な良性の直腸腫瘍、あるいは粘膜内にとどまるかそれにほぼ準じる直腸早期癌で、現在までに14例に対し本法を施行しました。そのうち2例は良性腫瘍で、2例がカルチノイドという良悪性の境界病変です。残る10例が直腸の早期癌でした。

治療成績ですが、手術時間は25〜75分(平均50分)で、出血はほとんどなく、合併症は全く認めませんでした。全例術後3日目より経口摂取を開始し、病理組織検査の結果を待って1例以外は術後7〜10日目に退院しました。残る1例は病理組織検査の結果、手術前の診断より少し進んでおり粘膜下層に深く浸潤した早期癌であったため、完全治癒をめざして直腸切断術の再手術を行いました。